三文会

東大周辺で毎週土曜朝に行っている勉強会です。毎週違う人の話を聞きながら、参加者と発表者が相互に議論をしあいます。テーマ、参加者ともに多様性が特徴です。※2020年3月から、オンラインで開催しています。

9/30 「大学院生出張授業支援プロジェクト」

本日の三文会は、大学院生出張授業支援プロジェクト(BAP)の代表、音野瑛俊さん(理学系研究科博士課程)に、活動の紹介をしていただきました。 BAPでは、東大院生が高校生に自分の研究内容を紹介する授業を、母校に出向いて行う活動をサポートしています。

大学や大学院での研究に関する情報をほとんど得る機会がない高校生に、研究の現場にいる学生の生の声を聞いてもらうことで、自分の将来を具体的にイメージしたり研究に興味を持ってもらうことが目的の一つです。 私自身、講師として活動に参加し、その楽しさ、有意義さに大きな魅力を感じました。

BAPはもともとは0to1という、「科学コミュニケーショングループ」(ざっくり言えば、理系の専門の難しそうに見える研究を、普通の人にも知ってもらってもっと交流することを目指したりそのための方法を議論するグループ)の中で行われていた高校生への出張授業が元になっています。

平成20年度の東京大学学生企画コンテストで優秀賞を獲得したことをきっかけに、出張授業を行う部分のみをBAP(Back to Alma-mater Project)という団体として独立させ、今年度から出張授業の活動を始めました。

活動内容は 出張授業を大学院生が出身高校で行うことを支援する

活動目的は、 ・後輩に学問の難解さではなく、楽しさを生の声で伝えたい ・出張授業のノウハウをコミュニティで共有し、少ない負担で授業を行いたい ・BAPの経験を他大学のコミュニティへ伝え、出張授業を大学院生の文化として定着させたい です。

活動先を学生の出身高校に限ることで、講師となる学生のモチベーションをあげたり、このような活動に興味がある高校だけに授業が限られてしまうということがなくなる、などの利点があります。 すでに7校での授業が行われ、今年度中には30校以上の高校で授業が行われる予定です。 BAPでは、非常にシステマチックに授業までのフローが決められており、それに沿うことで、最小限の労力で最大限の効果が期待できます。以下に、簡単にご紹介します。

授業に興味を持ち、応募してきた学生が、まずは無事に講師として採用されます。 そうすると、BAPの運営委員が学生一人に対して一人、担当として初めから終わりまでマネージャーのように付き添います。 まずは高校側との交渉、そして日程の決定、授業内容の相談、練習会、手直し、本番、最後の反省会まで、フルサポートしてもらいます。 こうすることで、人前で話すことに対する経験や能力にある程度ばらつきがある学生が講師として集まっても、十分なサポートを受けることで一定以上のクオリティの授業が保障されます。 授業だけなら個人でもできてしまいそうですが、BAPに所属することでこれまでのノウハウを継承でき、また自身が反省会を行うことで、ノウハウの蓄積に貢献できます。

また、サイエンスコミュニケーションにかかわる他団体とノウハウの共有を行うことも行われています。 BAPとしての運営費用の備品などを除くメインは、高校までの講師の交通費です。 基本的には高校側に講師の交通費を出してもらえるよう交渉しますが、まだ出張授業が文化として根付いていないため、予算をうまく出せない高校があることも事実です。

将来的に出張授業が文化として根付き、高校のカリキュラムもしくは大学院生のカリキュラムの一環となれば、将来的には学校の予算内で活動できるのではないかと思われます。 そうするとBAPは持続可能な活動、団体となり、無理のない組織設計になっていると考えられます。 現在は先ほど述べたように講師に対して運営委員がフルサポートを行っているために、マンパワーがぎりぎりの状態で運営していますが、ノウハウが蓄積されることでサポートを要点のみに絞って簡素化したり、文化が広がることで運営メンバーを増やすことができ、そうすることで余裕をもった運営ができると思わ れます。

また、私は実際に講師として参加してみて、非常に勉強になる経験だと思いました。 学会などで研究発表をしても、それはお互いが同じバックグラウンドを共有している相手であるため、ある意味では非常に簡単です。 しかし、真っ白な状態の高校生に話をすることは、とても難しいです。そして、いかに自分が限られた語彙を使う狭い世界に閉じこもっていたかを知ることになります。 高校生に理解してもらえるまでに自分の研究を簡素化して説明することで、逆に自分の研究をいつもとは違った視点でとらえることもできます。

さらに言えば、「何の役に立つのですか」という質問がほぼ必ず来るため、「論文を書いて卒業するため」になっていた研究の意味を、改めて問い直す機会になりました。 数年前までは目の前の高校生のように「話を聞くだけ」だった自分が、「発信する立場」になったことを実感できる場でもあります。 モチベーションがわき、自分の研究に責任をもたないとな、と感じられました。 高校生に情報を届けるだけではなく、とにかく閉じこもりがちな大学院生が、自分を発信して見つめなおす機会としても、出張授業は非常に有意義な活動であり、広まってほしい文化だと思います。

今後もBAPの活動を応援していきたいと思います。