三文会

東大周辺で毎週土曜朝に行っている勉強会です。毎週違う人の話を聞きながら、参加者と発表者が相互に議論をしあいます。テーマ、参加者ともに多様性が特徴です。※2020年3月から、オンラインで開催しています。

11/11 「あと3年」で素敵な日本人になる方法・・・?

今日は、京都大学の経済研究員である栗田さんに発表していただきました。栗田さんは京都大学在学中の3年時に交換留学でストラスブールに一年間行き、4年時に帰国、さらに5年生の夏に、国際プログラム・正規留学生として5年間パリに留学されました。(再留学中、半年後に京大卒業)金融工学が専門で、グランゼコールの中でエンジニア系では最高の大学校であるエコールポリテクニック(ポリテク)に留学し、高等師範学校系大学校(大学教員養成)であるパリエコールノーマルシュぺリエール(エコールノーマル)でも3年間学びました。 栗田さんは、「理系のヨーロッパ留学」という観点で留学についてお話しくださいました。 文系は、自分の専門が語学である場合はそれを利用すれば良いため留学の障壁は低いのですが、理系は自分の学問+語学を学ばなくてはならないため、障壁が高 いと思われがちです。 し かし、理系の学問は世界共通(数式も化学式もグローバルスタンダード!)なので、じつは理系のほうがどこで勉強しても同じ質の学問をすることができます (だからこそ、留学のインセンティブがない、という逆の味方もできますが)。 語学の障壁も、理系ならば留学してからその国の言語を学べば大丈夫、という場合が多く、入試を受けたり願書を書いたりする英語力さえあれば(特にTOEFLなど を受ける必要はないことが多い)留学への障壁がぐっと低くなるところがありがたいです。奨学金の面でも理系は取得しやすいですし、なにより日本の理系のレベ ルは世界的に非常に高いので、さらに一般的にとてもまじめである日本人学生はどこに行っても通用します。 また、理系の学問は就職しやすい、というのは世界共通らしく、留学した後に現地で就職することも文系に比べて容易ですし、国際感覚のある理系人は日本の就 職でもかなり有利っぽいです。

フランスは数学ができる人を尊敬する文化があり、例えば純粋数学をする方々への保護が手厚かったり(フィールズ賞受賞者は国民のヒーロー)、エンジニアが社 会で幅を利かせていたり、大統領も理系出身が多かったりするそうです。日本とは大違いですね。そんな素敵な文化が日本でも根付いてほしいです。

も しも留学を考えるのならば、まずは大学の斡旋する交換留学がおすすめです。 そして、そこで実績を作っておけば、学位取得などの正規留学の際、奨学金などの 面で有利になることがあるそうです。正規留学の際は、政府留学生の資格をが んばって取得すれば、金銭面でも、何より身分保障の面で非常に助かります 。

フランスの学校体系は、日本とは少し違います。 高校卒業時に、約6割の学生がバカロレアという大学入試統一国家試験を取得しており、それがあればどの大学にも入学できます。しかし、1年生から2年生にあ がるための試験では、4割程度の学生が退学させられるそうです。2年生から3年生にあがる際も同様に4割は落とされ、4年目のMaitriseという(M1に相当)課 程にあがる際にはかなり選抜されています。5年目はDEAという課程ですが、4,5年目になるとあまりふるい落とされず、自分たちの学問を追求でき、DEA取得者 は博士課程に進むものもいます。 1年目に落とされた場合、一回は別の大学に入り直すことができますが、そこで脱落した場合はもう挽回がききません。 フランスで就職するには「経験」が重視されます。脱落してしまった若者が一番初めの職をえることは難しく、よって失業者や肉体労働者などになり、フランス の大きな社会問題になっています。何年か前にあった学生デモ(2ヶ月くらい学校閉鎖)は、将来に強い不満を持っている大学の1,2年生が中心となっておこした ものでした。

また、大学とは別に「グランゼコール」という「大学校」に相当する学校があります。 これはいわゆるエリート学校で、高校卒業後にバカロレアの成績により選抜される高校付属の予備校(クラスプレパ・ルイ・ル・グラン校やアンリ・キャートル校 が有名)で2年(浪人する場合は3年)勉強し、それから受験をします。(栗田さんが留学したポリテク、エコールノーマルがこの「グランゼコール」です)。 入試の順位はインターネットですべて開示されます。さらにポリテクでは、入学後1,2年次の成績で将来が決まり、優秀な上位10人はそのままエリートコー スを進めるプログラムが用意されるそうです。生涯における彼らの間のコネクションは強烈らしいです。11位以下も同じで、成績順に輪切りにされ、インター ネットで公表されます。 その他にも、大学教員はほぼエコールノーマル出身の人間であったりと、日本以上の学歴社会がフランスでは展開されています。しかも、グランゼコールの学生 の親はグランゼコール出身であったり、逆に移民の子供は非常に少なかったりと、格差遺伝が深刻です。

小話ですが、フランスでも「エリート大学の学生は服装に気を使わない(いわゆるダサい)」らしいです。 「イカ東」「イカ京」と同じノリで、「シャツにベスト、七三分け」などの垢抜けないおぼっちゃまスタイルの学生があげられるそうです。 フランスと言えばおしゃれ、なイメージでしたが、なんだか親しみがわきました。

栗田さんは14歳くらいから「アフリカの子供のために働きたい!」という願いを持ち、大学入学当初から留学を決めていたそうです。 逆に、今の日本の現状ではそのくらい考えておかないと、「ちょっと一年留学行きたい」ということがなかなか難しいです。 ぼんやりサークルやバイトをしていたらあっという間に大学生活は過ぎ去り、留学に興味を持つ頃には就職活動などが控えていてなかなか1年間あけることが難 しい。親の理解もまだ得にくいことが多いし、金銭面でも奨学金は簡単に狙いにくい。 しかし、留学したほぼすべての人が「留学経験は人生において役に立つ」と答えています。 日本の狭い世界しか知らないことは、とても損だと思うのです。 いまは年間にさまざまな種類の留学あわせて13万人が留学するそうですが、大学生は200万人程度います。 まだまだ少ないと思いませんか? 制度的に、文化的に、日本でももっともっと留学が普及するといいなと思います。