三文会

東大周辺で毎週土曜朝に行っている勉強会です。毎週違う人の話を聞きながら、参加者と発表者が相互に議論をしあいます。テーマ、参加者ともに多様性が特徴です。※2020年3月から、オンラインで開催しています。

2/18【熱・統計力学にもとづく人工細胞モデル研究と実験教材への展開~生命の理解へのアプローチ~】

細胞は分裂することで情報を子細胞、孫細胞に伝えていきます。細胞は分裂すべき時期になると膜に輪切りにする機能を持ったタンパク質が現れて、弾力のある膜をきれいに切ります。しかし、生命は初めからそんな高機能素材を持っていたとは思えません。実際、原始的細胞はこの機能を持っていないため、もがいて苦しみながら不規則な運動を繰り返して、なんとか分裂しています。そのあたりの原始的細胞分裂は分子の反応性ではなく、膜の弾性と熱・統計的な作用で起こっているはずです。つまり、分子生物学、分子化学というより分子物理と考えるべきです。そこを探究したのが本講演のテーマです。

さて、生命はどのように誕生したのでしょう。それは大変難しいテーマです。そもそも生命の定義もはっきりしません。でも、どこかに自分と外界を区別する「膜」は必須と思われます。実際、地球上の生命の最小単位は膜に囲まれた「細胞」です。高校理科生物の教科書が「植物細胞」「動物細胞」から始まるのもうなずけます。

2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞したJ.W.ショスタックは、細胞を構成する必須の要素として、「①境界(細胞膜)」「②情報(遺伝子)を伝えるための分裂増殖」「③触媒(酵素)による代謝」の三つの条件をあげ、特に自己を他と区別する膜の重要性を第一にあげています。

これを考えますと、生命起源の研究が膜に包まれた「人工細胞」で進められてきたのも納得出来ます。しかし、研究の場においては「②情報(遺伝子)」「③触媒(酵素)」への道を進むため、既に特化された制御性能を持った生命物質(DNA、タンパク質など)の「既製品」を持ち込んで精緻な実験がなされる傾向があります。

それに対して、私は、ポリスチレンビーズなど化学反応性を持たない内包物を使って熱・統計力学的なモデルに基いて、個々の生体高分子の機能性に依存せず、②にあたる人工細胞の分裂を起させる研究をしてきました。境界膜の弾性変形とその中に混み合って入っている内包物の物理的関係の解析をすすめました。このような普遍性をもとめる研究は現実の細胞から離れるおそれがありますが、ここで得られた分裂挙動自体が、上で述べた原始的な細胞の分裂に極めて似ていることがわかりました[1]。つまり、本実験は、細胞が改良されてきた道筋(生命が未熟な段階から進展する過程)をたどっているとも思えてきました。この方法は物理であるために③への飛躍も期待できます。

このような物理的モデルを用いた構成生物学的アプローチの研究は、初学者が学ぶ基本的な物理学と研究が密接に結びついています。自然科学の原理ともいえる「現象が多様であることを踏まえつつ,それらに共通する基本的な概念や原理・法則を理解する」態度を養成するものであり、理科教育の場に極めて適した題材とも言えます。この観点からの中等教育の場への応用の試みも紹介します[2]。

[1]総説として;Natsume Y, Membranes. Vol.12 (2022) No.6, 608. https://www.mdpi.com/2077-0375/12/6/608 

[2]夏目ゆうの;日本物理学会2023年3月領域12-23aM1-12チュートリアル講演。領域13-12aN1-5。

【一分間スピーチのテーマ】

次の二つの質問のどちらかに答えて下さい。両方に答えてもけっこうです。

  • 生命はどのように定義することができるでしょうか。
  • 物理学を用いて生物にアプローチするように、何と物理学を組み合わせて学びたいですか。

※三文会では会のはじめに、参加者の皆さんに、その会の話題について、ひとり1分程度で自己紹介を交えてお話しいただきます。

【発表者】

夏目ゆうの

宇都宮大学共同教育学部助教

【開催場所】

Zoomで開催します。

【スケジュール】

  • 8:00~8:30、参加者の自己紹介+発表者のお題に沿ったコメント(一分間スピーチ)
  • 8:30~9:40、発表
  • 9:40~10:00、参加者と発表者の感想

8:00開始は固定ですが、その他の時間は変動する場合があります。

【参加費】

無料

【参加方法】

  • 事前登録は不要です。
  • Zoomで開催します。(※事前のダウンロードが必要です。)
  • 時間になったら下記のURLをクリックし、入室してください。マイク付きイヤホンを使うとより快適です。

三文会では発表者・参加者・運営を募集しています。

興味のある方はsanmonkai.utあっとgmail.comまでご連絡ください。